20年ぶりに物性若手夏の学校で話をしました。残念ながら台風でオンラインとなりました。

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第68回(2023年)物性若手夏の学校 集中ゼミ

 

「幾何学的位相とゲージ場」

初貝 安弘

電磁気学の点電荷は基本的ですが、点磁化(単磁極)は未だ観測されていません。しかし理論的には、その存在は何ら否定されるものではなく、ディラックによると素電荷と”素磁化”の積はプランク定数の整数倍に量子化するとされます。この量子化の起源はゲージ場としての電磁場が量子力学に従う波動関数にもたらす位相の幾何学的な拘束条件にあって、このような位相を広く幾何学的位相といいます。

最もよく知られた幾何学的位相は周期的な断熱過程に伴うベリー位相で対応するゲージ場をベリー接続といいます。このゲージ場は電磁場とは違って直接の観測量ではなく、量子論に限らず自然界に広く存在するにもかかわらずその意義が認識されていませんでした。このベリー接続で表されるザック位相やチャーン数も広義の幾何学的位相です。特に離散的な値しかとらない(量子化する)幾何学的位相は、近年広く興味を持たれているトポロジカル相のトポロジカル秩序変数として、系の境界で実験的に観測される局在状態の存在を予言します。この関係がバルクエッジ対応です。

講演では、最初にディラック単磁極とベリー接続についてわかりやすく説明します。その後、ベリー接続がバルクエッジ対応を通して支配する現象を広く紹介します。量子(スピン)ホール効果、フォトニック結晶や細胞で観測される一方向のみの流れ、ワイル半金属のフェルミアーク、エルニーニョ現象、等々がその例です。ベリー接続のディラック単磁極は、これら多様な現象すべての源泉で、バルクエッジ対応を通して自然界に広く実在するのです。