時間反転対称性とは文字通り時刻を逆向きに進める変換です。量子系の運動はシュレディンガー方程式と呼ばれる本質的に複素量に関するある種の「運動方程式」にしたがいますが、スピンを持たない粒子系に関してはその波動関数の複素共役をとることで、「時間反転対称操作」は与えられます。磁場の存在は明示的にこの時間反転対称性を破ります。興味深くそして物理的にも重要な現象は系がスピンを持つときに現れます。
系がスピン1/2を持つとき、時間反転操作は複素共役をとるのみではすまず、スピン成分に関してある種の変換を要求します。これによって系の粒子数が奇数であれば全ての固有状態がクラマース縮退と呼ばれる本質的かつ追加の縮退度をもつことになります。ただし、全粒子数は保存するとしました。一般に量子系の記述には複素数がもちいられますが、このクラマース縮退を含む時、系の記述には四元数とよばれる新しい数が本質的な役割を果たすことがF. Dyson以来の研究で明らかとなりました(最近私もこの系のベリー接続に関して論文を書きました:参考文献)。量子ホール効果は系の時間反転を破ったときのトポロジカル秩序相の典型ですが、スピンを持ち込むことで時間反転対称なままでも類似のトポロジカル絶縁相が存在することがあきらかとなってきました。これが量子スピンホール相です。
[1]Y. Hatsugai, “Symmetry protected Z2-quantization and quaternionic Berry connection with Kramers degeneracy” [arXiv:9090.4831]