原子(アトム)とはギリシャ時代に物質をどんどん細かく分けていくとあるところで、これ以上は分けられないもの、分けてしまうと性質が変わってしてしまうものとして、観念的(哲学的)に考えられたものですが,量子力学の量子とはこれと類似のある何か基本的なを意味します。例として信号機の赤色の光を考えてみましょう。信号の出力を絞っていくとどんどん暗くなりますが、光を量子論的に考えるといくらでも暗くできるのではなく、限界があることとなります。赤色の光にはその基本的な単位つまり量子があるのです。この光の量子はプランクにより光量子仮説として、ある実験の解釈のために導入されましたが、現在では確固たる実験事実となっています。赤色の光を検出器で測りながらどんどん暗くするとあるところで、検出器は連続して光を検出しなくなり、ポツポツと不連続に出力を出すようになります。光の量子をフォトンといいますが、この領域の検出器はフォトンカウンターつまり光量子の数を数える計測器となるのです。
もう少し広く量子とはquantum jupm等と使われることからわかるように不連続性を意味します。光量子は1個、2個,3個と不連続な整数個しかありえないわけで光量子1.2個が観測されることはないのです。表題の断熱定理とはこの不連続性に関係します。物理的な系が時間的に変化しないある量子状態にあるとしましょう(定常状態といいます)。この状態は例えば光量子2個の状態のように他の量子状態(例えば光量子3個の状態)とは不連続にしか変化できないとします。外界からエネルギーをもらわないと他の定常状態に移動(遷移といいます)できないわけですが、不連続性に対応してこの状態の変化に必要なエネルギーは有限の大きさとなります。光量子1個分のエネルギーをもらわないと光量子が2個の状態から3個の状態には変化できないわけです。今、物理系は定常状態、つまり時間的に変化しない状態にあると仮定していますが、この系をゆっくり変化させることを考えてみましょう。できるだけそーーと、無限にゆっくりと変化させることを考えましょう。2個光量子の入った箱をゆっくり動かすようなものです。ここで動かすためには外界からエネルギーを注入しなければ成りませんが他の状態に移り変わるためには「量子」に対応するだけの有限の大きさのエネルギーが必要となることを思い出しましょう。ゆっくり動かすときゆっくりであればあるだけ外界からの外乱によるエネルギーの流入は少ないわけですから、量子に対応するエネルギーに比べてこの外乱のエネルギーを小さくすれば、つまりゆっくり動かせば系はほとんど移動に伴なう外乱の影響を受けないこととなります。つまり、「量子化された定常状態にある系は系を無限にゆっくり動かすとき状態が変化しない」こととなります。これがボルン、フォン・ノイマン等により定式化された断熱定理とよばれる主張です。ここで系が量子化されていることつまり他の状態と有限のエネルギーをもって分離されていることが重要です。物理的な考察では単に「ゆっくりと」というだけでは意味ある主張はできません何に対してゆっくりなのかを示さなければなりませんが、ここでは他の状態とのエネルギー差(ギャップといいます)を基準にして移動にともなう外乱のエネルギーを極めて小さくするというわけです。ギャップがあれば断熱定理が成立するのです。