断熱定理のところで説明したように量子系が時間的に変化しない定常状態にあり、かつ他の状態とエネルギーギャップをもって隔てられているとしましょう。ここでは小鳥が1わ入った鳥かごをイメージしてみます。この系を断熱定理の仮定を満たすようにゆっくり移動させ、最後にもとの位置に戻すことを考えましょう。鳥の入った鳥かごをそ~っと2階までもっていってまたそーっと1階にある元の場所に戻すわけです。断熱定理によるとこの過程で量子系の状態は変化しないので系の量子状態はもとに戻ることとなります。禅問答のようですが、もとにもどるころはもどるのですが、実はすこし何かが変化する余地があるのです。それがなければわざわざ説明しませんよね、
ここで量子系の状態とは何かを少し考えてみましょう。量子系の状態とはある種のベクトルとみなせますから高校で学んだ空間内の点を指定する位置ベクトルをイメージしてみましょう。ただ量子論ではベクトル自体に意味があるので、その向きは気にしないことにします。線分を空間の中に書いてベクトルとしたとき、線分の両端のどちらに矢印を書くかは気にしないというのです。さらにベクトルの大きさは色々あるの混乱をきたすので常に大きさ1のベクトルだけを考える事とします。これを量子論では状態は規格化されていると言います。さあどうでしょうか?量子論では状態が向きを気にしない長さ1のベクトルで指定されていて、断熱定理によると上記の過程(断熱過程)で状態がもとに戻ったとして、何かさらに変化する余地はあるとおもいますか??
賢明なかた(注意深い方)でしたらおわかりと思いますが、量子論ではベクトルの向きを気にしないといいましたからその向きが変わってしまう可能性があるのです。上記の3次元空間のベクトルの例では向きは −1(マイナス一)を書けることでいれかわりますが、その符号が断熱過程において変化する可能性があるというのです。一般の量子系では状態はベクトルはベクトルでも複素数を成分とするベクトルをかんがえますので、規格化しても絶対値が1の複素数、つまり位相だけ不定となりますが、ここでの断熱過程においては系がもとにもどってもこの位相は必ずしももとにもどらず、ある有限の位相変化が残ることがあります。この位相変化がベリー位相とよばれるもので、量子系の幾何学的位相と呼ばれるものの代表格とい考えられます。