量子液体はその名前にもあるように本質的に量子効果をその基盤とするものです。そう考えると幾何学的位相が量子系の本質的側面を記述していると見なしたと き、幾何学的位相により量子液体相を記述、特徴付けようとするのは極めて自然であるとすらいえます。量子的状態とは近年量子計算等の研究の進展で広く知ら れるに至りましたがその局所摂動に対する応答ですら局所的ではなく系全体に及びます。よって量子的波動関数を作業対象とする幾何学的位相を用いた相分類、 特徴付けを考えることは局所場の理論に基づく局所秩序変数に基づくこれまでの相分類、相転移理論とは本質的に異なるものとなります。
すこし細か くなりますが、幾何学的位相を用いた量子液体の特徴付けに関する私の研究をすこし紹介しましょう。量子液体では通常の秩序変数が使えないわけと何度もいい ましたが、では何を作業変数として物理をやればよいのでしょうか? 私は、この問いに対する答えとしてその作業変数として幾何学的位相を用いた「トポロジ カルな量」を用いることを提案し具体的なスキームを具体例とともに提示しています。ここで物理量といわず「量」といったのは通常の古典的対応物の存在する 物理量はエルミート演算子に対応するわけですが、ここでの「トポロジカルな量」は演算子としての対応物を持たないからです。この理論では、エルミート演算 子ではなく、ベリー位相の議論の際に用いられたベクトルポテンシャルを一般化したベリー接続と呼ばれるものを基本的作業変数として議論を進めます。その 際、系の特徴付けを行うためには密度、磁化、等の様な連続量を使うこともできますが、ここでの理論では「量子化」された「トポロジカルな量」を構成するこ とを目指します。量子化された量をもちいれば相の分類が明確であることは明らかでしょう。これを用いると古典的秩序変数とは異なるトポロジカルな秩序変数 を構成することもできるのです。量子液体相では本質的な局所的な秩序変数は存在しないと繰り返してきましたがこの古典的対応物を持たない量を用いることで 量子液体相に対するトポロジカルな局所的秩序変数を構成することができるのです。最近その一般論をつくるとともに重要ないくつかの例であるフラストレート したスピン系、2量体(ダイマー)化した電子系に関して具体的な適用結果を示しました。